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【イベント報告】『SNS-少女たちの10日間』7/3 太田啓子さんリモートトーク付き上映レポート

太田啓子さんのリモートトーク付き上映、ご来場ありがとうございました!
『SNS-少女たちの10日間』引き続き大好評上映中!

7/3(土)の『SNS -少女たちの10日間』太田啓子弁護士リモートトーク付き上映、大変多くの方にご来場いただきました。ありがとうございました。人数もさることながら、現職の議員さん、教職員・医師・新聞の論説委員・家裁調査官の方々など様々な分野の専門家の皆さん、大学生や中高生の親御さんなど、幅広いみなさんのご参加をいただき、この問題の関心の高さを改めて認識したと同時に、嬉しく思いました。

太田さんが『SNS -少女たちの10日間』の中で特に気になった点として、少女とのSNS越しの対話の相手=(性暴力の)加害者が、いわゆる小児性愛者(ロリコン)というような人ではない、という点を挙げていました。加害者たちは特殊な人たちではなく、

①認知がゆがんでいる → 少女の方が明らかに大人より弱い立場なのに対等だと言い張る
②相手に対して「上に立ちたい」「思い通りにしたい」
③被害者意識がつよい→相手が思い通りに動いてくれないことを「被害」と感じる

という傾向を持つ人々。とはいえ、どこにでもいる、ごく一般的な人びとなのです。

こういった特徴は、太田さんが普段弁護士としてかかわる離婚やセクハラ裁判の被告の人々の特徴とも重なるといいます。性暴力被害者への相談を行うNPO法人ぱっぷすの方の「彼らは、まるで攻略ゲームのようにやっているんですね。いかにこの子に恐怖を感じさせ、いかに写真を送らせるか、感情を支配して送らせるかというゲームです。」という言葉も紹介していただきましたが、まさに支配の道具として、「性」を利用しているということです。

ではなぜ、そのようなおぞましい“支配ゲーム”が起こってしまうのか。社会の中にある一定の風潮が、それを起こしやすくさせているということです。太田さんがいくつかキーワードを上げてくださいました。その一つが「ルッキズム」です。ルッキズムは、容姿や身体的特徴などで人を判断することや、それに基づく偏見や差別のこと、いわゆる、外見至上主義です。かわいいことが大事!と強く刷り込まれていると、「かわいいね」と言われただけで相手に認められたような気分になってしまいがちです。作中の加害者たちもこの「かわいいね」を連発するシーンが数多くみられましたが、そうすることによって徐々に少女たちを手なずけていくのです。このように、相手に寄り添うように近づき自分を信頼できる人間だと安心させるよう洗脳していく加害戦略を「グルーミング」と呼ぶそうで、ルッキズムはそのグルーミングを起こしやすい土壌を作っているようでした。

また、社会の中にある「性暴力を娯楽にする表現」が問題であるという指摘もありました。太田さんが挙げていたのは、かの有名なドラえもんのシーン。のび太君がどこでもドアを開けると、そこにいたのは入浴中のしずかちゃんで、「キャー!のび太さんのエッチ!」と怒られるという、「ちょっと笑える」場面として定番化しているシーンです。しかし、現実で考えてみると、入浴中に突然異性に入って来られたら、ショックのあまりしばらく一人でお風呂に入るのが怖くなるくらいのトラウマになりかねないですよね。このような性暴力の娯楽化は、性被害を矮小化させ、実際に被害を受けた人が誰かに相談しにくいというような状況を生みかねません。私たちも、日常生活のなかにあふれるこういった「娯楽化された性暴力」に注意をする必要があるかもしれません。

もう一つ、太田さんが紹介してくれた重要なキーワードとして、「包括的性教育」というものがありました。これは、「性(セクシャリティ)」をセックスや出産のことに限定せず、他者とのかかわりなど人間の心理的、社会的、文化的な面も含めて、広く人権にかかわる問題としてとらえ、すべての子どもを対象として行われるべきとしてされる性教育の理念の事です。ユネスコがこの包括的性教育の理念を基にした、成長の各段階で行われるべき性教育の内容を具体的に示したガイダンスをだしているのですが、日本の教育界にはこれが全く浸透しておらず、性教育については「寝た子を起こすな」という考え方がまだまだ根強いといえます。性に関する知識と共に自分の体も他人の体も尊重する意識を育てる包括的性教育は、性暴力の加害者を生まないためには欠かせないものではないでしょうか。

このほかにも、先日から話題になっている性向同意年齢の話や、性の問題に関する世界各国の規制の状況など、非常に広範にわたる重要なお話を太田さんからたくさんいただきました。また、参考になる書籍やサイト等も数多くご紹介いただきました。太田さんの最新著書『これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン』には、今回のお話に関連する多くのことがより詳しく、具体的に示されています。ぜひ、ご一読をお勧めいたします(高田世界館ロビーでも販売しています)。

余談ですが、今回の『SNS -少女たちの10日間 』では、女性の性被害に焦点が当てられていましたが、だからと言って男の子が被害者にならないとは限らないということは、作品のエンドロールにも示されていた通りです。また、加害者が男性とも限らないことも、作中に示されています。『SNS -少女たちの10日間』が製作されたチェコでは、ほぼ同時期に、子どもを取り込んでいくSNS社会の闇を描いて国際的に非常に高い評価を獲得したテレビドラマ『#Martyisdead』という作品も製作されました。こちらの主人公=被害者は中学生の男の子で、描かれるSNSの闇の中には彼が受ける性被害もありました。この2作品が同時期に公開され同じように大きな反響を呼んでいることは、この問題に対する危機意識の高さを表しているのではないでしょうか。日本でも同じような現実が確実にあると思われます。決して「うちの子は男の子だから被害に関しては大丈夫」というような問題ではないのでしょう。

今回のトーク付き上映にお越しいただいた方からは「次は子どもを連れてきます!」「正直受け止めるのがしんどい内容(映画)だったけど、この現実は多くの人に知ってもらいたいです」「加害者を生み出すきっかけや環境について、色々な視点から見ることが大切だと思いました」といった感想をたくさんいただきました。本当にありがとうございます! 太田さんも著書の中で書かれていますが、性暴力加害者を生まないための教育の一つとして、「性暴力がどれだけ人を傷つけるかを知ること」もとても重要です。『SNS -少女たちの10日間』は、スクリーンのこちら側という完全な安全圏にいながら、その暴力性を体感できるという稀有な作品かと思われます。上映は7/16(金)までつづきます。皆様のご来場、心よりお待ちしております。

最後にもう一度、貴重なお話をいただきました太田啓子さん、本当にありがとうございました!

 

SNS-少女たちの10日間-』(R15+)

▼上映期間:7/3(土)~7/16(金) ※火曜日定休
▼上映時間:7/5(月)~7/9(金) ⇒ 12:30~
      7/10(土)~7/16(金) ⇒ 14:45~、18:50~

 

 


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